臼田亜浪四十五句

 

吉田園

氷挽く音こきこきと杉間かな(大正5)

 

雲雀落つ谷底の草平らかな(大正5)

 

足袋裏を向け合うて炉の親子かな(大正8)

 

枯葉鳴る静かさに居りお元日(大正9)

 

木曾路ゆく我も旅人散る木の葉(大正9)

 

河北潟の戻りに

稲田蔽ふ雲冷やかに暮れてゆく(大正9)

 

楠のふところ明るうなつて朝寒き(大正9)

 

(ひよどり)のそれきり鳴かす雪の暮(大正9)

 

浅間ゆ富士へ春暁の流れ雲(大正10)

 

浅間山の印象

日も春の浅間根つづる桃桜 (大正10)

 

炎天の石光る我が眼一ぱいに(大正10)

 

菱野鉱泉

蒼空のもと秋草の中の我れ(大正10)

 

大浅間ひとり日当る山冬木(大正10)

 

河鹿の声の水を流るる昼餉かな(大正12)

 

火鉢にかざす手の中の我が指の骨(大正12)

 

畳走る追儺の豆の音賑はし(大正13)

 

かつこうや何処までゆかば人に逢はむ(大正13)

 

今日も暮るゝ吹雪の底の大日輪(大正13)

 

本別

宵々に雪踏む旅も半ばなり(大正13)

 

夕凪ぎや浜蜻蛉につつまれて(大正14)

 

漕ぎ出でて遠き心や虫の声(大正14)

 

ふるさとは山路がかりに秋の暮(大正14)

 

曙や露とくとくと山桜(大正15)

 

死ぬものは死にゆく躑躅燃えてをり(大正15)

 

飛行機上にて

空へ空へ我れはも昇る青嵐(大正15)

 

天竜峡

時雨れむず橋下の水の秋の声(昭和3)

 

鹿島舟遊

春蝉の声引き潮の音もなく(昭和4)

 

平泉懐古

夢の世の春は寒かり啼け閑古(昭和4)

 

葉桜に筑紫の山の風もなや(昭和4)

 

するが野や大きな富士が麦の上(昭和5)

 

月山太鼓壇にて

天風や雲雀の声を絶つしばし(昭和5)

 

雪散るや千曲の川音立ち来り(昭和5)

 

硝子戸の明るくなりて凧あがる(昭和6)

 

お祭の店先の西日となりぬ(昭和6)

 

雲巌寺

木つつきよ叩け寺門の秋深き(昭和6)

 

京都にて

曙や比叡の霞の街へのび(昭和7)

 

そのむかし代々木の月のほととぎす(昭和8)

 

雛の眼の遠い空見ておはすなり(昭和10)

 

月となる洞爺の水へ虫通ふ(昭和11)

 

をどるをどる湯山の月の満つる夜を(昭和11)

 

居麓荘にて

鵙の子が育つにまかせ明け暮れを(昭和12)

 

雁一聯窓の一角截り去ぬ(昭和16)

 

禁煙す夏至の夕べのなど永き(昭和20)

 

向日葵の大き一つは日に反く(昭和21)

 

雪風の夜をさざめけり人形は(昭和23)