詩集「冬春・夏秋V」と同じ五月一日発行の詩論「冬春・夏秋の美的 世界V
」でもって、芥川義男の詩的世界が一つの完結を見たといってよいであろう。こ
の詩的世界は、「冬春・夏秋V」に収録された一編の詩を読めば、日本の伝統詩
「俳句」を挑発する試みであることに気付く。
季節の瞬間
冬の瞬間 飾り石のなかで眠る蝶の紋様から煩悶がとける「時」は倦怠だ。
春の瞬間 花びらの鏡がみずからの色彩と彩 色を映しあう。
夏の瞬間 命ある宝石へ光が落雷する「「かなしみが破片になる。
秋の瞬間 果実のなかで宝石が魂のように磨かれる聞きとれない音。
芥川の詩的世界は、ボードレールやヴァレリー等のヨーロッパ近代詩の影響を
深く受けているものと思われるが、日本語の詩が、フランス語やドイツ語で書か
れたヨーロッパの詩から、どれほどの影響を受けることができるものかは、定か
でない。言語間の堅い壁を突き破っての影響は、検証すべき手段を持たないので
ある。芥川は、詩的思索や詩的創造において、「超越的存在者」を排除する。「
永遠・不滅の真理、永遠なる宇宙の真理」も同様に排除する。その当然の帰結と
して「詩的創造は、客観的存在に伴う感動に起因し詩的言語によってなされるも
のであること」を論考し、検証するのである。芥川が、「真理・本質論」を排除
するならば、芥川の詩的世界は、言語そのものにその根拠を求めなければならな
いし、日本語以外の言語の影響を強く排除することにもなろう。芥川の詩的世界
は、ヨーロッパ近代詩の精神の影響を深く受けながらも、言語芸術である詩その
ものからは、どれほどの影響を受けたか定かでない。 芥川の詩は、ことばその
ものが、やや難解ではあるが、その透明感を読み取るならば、紛れもない日本の
言語芸術を代表するものであると言い切ってよいであろう。