肱川水系の文学


 四国の肱川流域で育った大江健三郎の作品は、その生れ故郷に深く根ざした ものが多いが、そこで生まれた文学といえば、藤森成吉の長編小説『若き洋学者 』がある。 大洲 出身の洋学者三瀬諸淵の半生を見事に描き切った伝記文学である。 赤松襄一 の「忍草」と「夏草」は、肱川の風土から生まれた青春の重みを持った作品であ る。  

 トンネルを出ると霧が深かった。大津盆地では朝霧が深いほどその日は晴れ る。午後は暑くなりそうであった。    
 
 肱川の自然と風土を描いたものと言えば、俳句を忘れてはならないであろう 。 

 ☆宇和川
 源流といふ露の村露の川         松岡竢美(宇和町東多田)
 猪狩の回覧板を川越へて         鹿島 実(宇和町卯之町)

 ☆黒瀬川
 野井川 谷川に竿長すぎる鮠を釣る    大塚鴬谷楼〈句碑・城川町誓願 寺〉 
 苗代水闇に深きを手にさぐる
 梟鳴き炭窯焚く吾れを孤独にす      藤田正明(城川町古市)

 ☆河辺川
 流れゆく雛に明るき水の底        岩城節子(肱川町上鹿野川)

 ☆小田川 玉谷川
 燃え尽きてすなおに淵へ散もみじ     毛利白頭(小田町本川)
 明月や水車のはじく水光る        徳田美浦(内子町大瀬)
 沢蟹の爪鮮やかに時雨けり        大野サカヱ(広田村総津)
 くぬぎ散る喜多の郡は炭どころ      大内耕子(内子町内子)

 ☆中山川
 河鹿鳴き静かに夕日入りにけり      下岡広洋〈句碑・中山町三島神 社〉

 ☆肱川本流 風薫る山永しへに水清し   村上霽月〈句碑・菅田〉
 山に江に霧百景の大洲かな        松井護郎〈句碑・西大洲寿永寺 〉
 振り返る大洲は霧の深かりき       稲垣晴巳(宇和町瀬戸)
 土手焼きや土の匂ひの煙立つ       米岡八重子(大洲市中村)
 肱川の満潮眩し大旦           小西かめ子(長浜町柴)
 海上へ肱川あらしひた奔る        一宮 博(長浜町豊茂)

 ★ 大洲城  城下へ流れつきたる雛かな   篠崎たか子(大洲市徳森)
 さくら散りいそぐ二の丸三の丸      宮田みちこ(大洲市徳森)

 ★盤珪
 盤珪禅師の遠まなざしや松の蘂      富永房子(大洲市大洲)

 ★筏流し
 春川や扇開きに竹筏           大橋不泥〈句碑・如法寺〉
 嵐が晴れて肱川裾の筏かな        西村笑波〈句碑・長浜高校〉
 春川の時間の流れで筏航く        高橋信之(大洲市新谷)

 ★寒中水泳
 寒泳の点呼少年より始む         西村広海(大洲市中村)
 寒泳の水に怯んでおりし子も       上甲澄子(宇和町卯之町)
 寒泳の雫もろとも子を抱く        長野由子(宇和町卯之町)
 寒泳の気おくれの子に檄のとぶ      福田磨理(宇和町卯之町)

 ★鵜飼
 鵜に吐かせしばかりの鮎を投げくれぬ
 鵜の首の行くをたしかむ水暗し      川本臥風(松山市)
 燃え上がりたる鵜篝に闇青し       好崎馨水(大洲市八多喜)

 ★鰍
 鰍漁の男つくづく無口なり        赤松襄一(八幡浜市)

 吉井勇も肱川を短歌に詠んでいる。  高橋新吉の詩もある。  竹山道雄の 紀行文は、短いながらも肱川の美しさを語る。