西垣脩の俳句
秀句とその鑑賞

西垣脩@
春雪に濡れたる素足ストーヴに
 
昭和十五年の作。脩はこの年、旧制松山高校を卒業している。卒業  
前後の作と思われる。春雪の明るさにそのあたりまで下駄で出たの  
かもしれない。あるいは何かの用で靴で出かけたのかもしれない。  
雪に濡れた素足をストーヴで温める。それはとても学生らしいこと  
である。その真摯でつつましい清潔な心情に心打たれる。(高橋正子)


西垣脩A
辛夷胸にあふるる高さ崖に佇つ 

昭和三十年の作。この句をあまいというであろうか。「俳句は聴く
もの」という氏の信条に照らせば、何か空気のような、クリスタル
なひびきが心に聞こえはすまいか。胸にあふれる白は、思いあふれ
る白である。                  (高橋正子)


西垣脩B
花樗窓開け放ち書に倦まず 

樗の花が咲くころは、うっすらと汗ばむ。開け放たれた窓の明かり
、樗の花明かりに身を入れて読書する楽しみは学生生活の充実と、
大きく開かれた未来を思わせてくれる。      (高橋正子)


西垣脩C
梨をむくナイフに空の青去らず 

旧制松山高校時代(昭和12〜14年)の作。愛大俳句会出身の私に
とって、先輩たちの作品に出会うといつも持田のキャンパスが思い
出されて懐かしい。ナイフに空の青が映っているのは、とても鋭い
感覚なのだけれども、いつまでも去らずにある青には空に対する無
窮の思いと人間のさびしさを感じてしまう。それは、俳句を越えた
ポエジーがこの句にあるからなのであろう。    (高橋正子)


西垣脩D
雲は秋の禄剛岬萱ばかり 

昭和52年、能登への旅の句。禄剛岬は能登半島の最北端。日本海
を眺める禄剛岬にあるものは、風に靡く青い萱ばかり。そこに佇つ
ときの思いの深さは計り知れない。この一年後の死を誰が予感した
でしょう。                   (高橋正子)


西垣脩E
さやけくて妻とも知らずすれちがふ
昭和三十二年、脩三十八歳のときの作。この年の七月に俳誌「皿」
を創刊・主宰する。「清冽」、そして「さやけさ」、これが脩俳句
の特質を語るに相応しい言葉であり、「さやけくて」という季語で
もって見事に日本の夫婦の愛を表現し得たのである。西洋文学のど
こにも見ることのできない美意識である。     (高橋信之)


西垣脩F
鴨とほく泛けり睫毛に風おぼゆ

有季定型の句だが、作者独自の切れとリズムがあって、それが詩情
となって読者に訴えてくる。575での単純な切れではなく、中七
の半ばの「泛けり」に強い切れがある。      (高橋信之)


西垣脩G
生牡蠣の胸を落ちゆくさみしさ堪ふ 

昭和28年、脩34歳のときの作。復刊「石楠」(原田種茅主宰)
で幹部として活躍していた。下五が六音の破調で、その中がまた四
、二音と切れている。この破調の中に脩の感情の襞が読みとれ、生
命に対する静かないとおしみを感じさせる詩人的な句である。  
                        (高橋正子)


西垣脩H
急行の速度に入れば枯れふかし 

西垣脩は大阪の船場に生まれ、旧制松山高校時代は「星丘」に参加
し、川本臥風に俳句の指導を受けている。俳人としてだけでなく、
現代詩人としての活躍も目覚しかったが、五十九歳の若さで急逝し
た。川本臥風の大学での最後の教え子となった私は、そんないきさ
つもあって、氏の不在をしみじみ淋しく思う。もう前のことになる
が、この句に出会った私は、郷里を離れ松山に暮らす私の心情その
ままの句という思いがし、ひたすら驚いたのを思い出す。清冽な句
風で知られる氏のあたたかなさびしさが胸を満たす。市街地の駅を
出た急行が本来のスピードになるころは、車窓の景色もますます枯
れを深めている。内に向かう精神は深くあたたかい。目に映るのは
、茎折れ、ところどころに空を映す蓮田、風にさらされた田、すす
きや千千の草草の枯れ、寒さを纏う山々。それらは細やかにことさ
らに鮮明である。こうしたすばらしい日本人の心を世界の人々に知
ってほしいと願い「水煙」のホームページに氏の句を載せている。
                        (高橋正子)

従来の日本画風の俳句とは違って、遠近法の手法の俳句である。時
間の動きによる画面の変化。作者の内面の深さも見えてくる。近代
俳句の一つの典型。               (高橋信之)


西垣脩I
旅装解き七草粥を温く食す

正月早々からか、あるいは年の暮れからか、旅を終え、家庭の暖か
さのなかでほっと一息ついている。下五の「温く」で作者の思いは
すべて語られている。              (高橋信之)


西垣脩J
風邪の母子抱きあふかたち玻璃透る

作者の人間らしい姿が見えてくる。若き日の西垣脩は、亜浪の「石
楠」に拠ったので、「ほととぎす」の花鳥諷詠とは違った人間を詠
んだ。人間探求派の草田男、梵の影響もあった。  (高橋信之)


西垣脩K
冬了るレモンを水にしたたらす

日常を詠んで感性がいい。穏やかな詩情だが、「冬了る」と言い切
った詩人の感慨は、きっぱりとしていて、俗なところがない。  
                        (高橋信之)


西垣脩



西垣脩



西垣脩



西垣脩



西垣脩



西垣脩



西垣脩J
寝酒さがす三時花吹く風きこゆ

片蔭をうなだれて行く楽しさあり

どの窓も麦畑のある部屋借りし   
 
梨をむくナイフに空の青去らず 

麦笛を吹き帰城せり皆死なず   
 
草ひばり色なくなりし空に鳴く


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