○ 飯島治蝶 満月や乳吸う赤子丸々と 運動会綱引く子らの口への字 秋空や切子グラスの海の色 ○ 山中啓輔 月今宵句座の心を一にして 秋光や青き卓布のリストランテ 野の風や尾花咲きけるビオトープ ○ 高橋信之 熟れ近き青よ稲穂の充実に 稲穂の垂れの同じ向きして重たさよ 満月に今日を供えるもののなし ○ 高橋正子 旅の目に田毎の畦の曼珠沙華 いっせいに月を待つべく曼珠沙華 満月を見に出てひとり月とわれ ○ 松井厚子 山荘に城をながめて月あかり いもたきの月光の川澄みわたり 肱川の頬にさわやか水の音 ○ 日野正人 運動会地響き残す障害走 ファンファーレ秋天を一周す ○ 脇坂紀子 一面に窓の外には彼岸花 満月の明かりが教えた帰り道 運動会遠く聞こえるファンファーレ ○ 河野一志 稲架立ちて寝かされており稲の束 休日の工場からの虫時雨 屋根ごとに光を反す今日の月 ○ 篠木睦 杜甫季白一期一会の月今宵 山風も川風も入れ今日の月 月の出の風に乗り来し磯の音 ○ 平田 弘 満月の浮かぶ宇宙の深き色 静寂と秋灯のもと時忘れ 女郎花小花散りばむ黄の傘 ○ 野田ゆたか ステージの峰月白を拡げ行く 満月を去りゆく雲も又過客 老い母の居間に安らぐ夜なべかな ○ 志賀たいじ 流る雲かいくぐりぬけ今日の月 待つという静けさがあり望の月 潮満ちて花海蘭(うんらん)の月明かり ○ 大山 凉 満月の透きて此の夜の濁りなく 秋晴の青き御空はなお蒼く 芒剪る田島の原の風乾き ○ 古賀一弘 天守閣満月捕らふヘリの影 露座仏に残る秋日の温みかな 蓑虫や単身赴任北の空 ○ 祝恵子 谷よりの清水に育つ今年米 秋蝶のベランダに影ゆらし去る 満月や母の墨軸探し吊る ○ おおにし ひろし 満月の傾ぎて花野影深し 名月や階下の妻に声をかけ 秋深き花野の路をどんどん行く ○ かわなますみ 満月や桟にもたれて風をきく どの窓も澄める月夜を賜れり 秋の蝉媚びることなく消えにけり ○ 瀧口文夫 満月や地蔵の背にも吾が掌にも 満月の夜も暴走の峠越え 水禍の村がれ地の栗の毬笑み初む ○ 堀佐夜子 満月の昇り来るを訊ねけり 十五夜の縁に卓出し月祀る 幽玄の月を眺めるこころかな ○ 甲斐ひさこ 子の家に子守して観る今日の月 刈りてまた美しき花野の新なる 爽やかに開く句集の帯青く ○ 大給圭泉 満月の静かなる庭木々の影 水底を映し満月皓々と 仲秋の焼肉匂ふどこからか ○ 澤井 渥 満月を横切る飛行機点滅す 伊勢湾の波かがやかせ月昇る 満月を見ることのなし犬散歩 ○ 安丸てつじ 満月に郷里(くに)の初物間に合えり 鏑矢の風切る音や萩の杜 少年の急ぐ家路に銀漢降る ○ 古田けいじ 北へ雲動けば全き月となる 月昇る薄きわが影見えてくる 馬追が飛び込んで来るパビリオン ○ 渋谷洋介 風通る狭庭を照らし望の月 収穫の祈りを込めて仲秋節 カーテンを開けて芒の月見かな ○ 臼井虹玉 満月を仰ぎて紡ぐ一行詩 夫今宵シンガポールに月仰ぐ きぬかつぎ端を落として座りよき ○ 黒谷光子 月光を入れむと御堂開け放つ お隣の庭にも満月愛でる声 花薄供えてありし辻地蔵 ○ 矢野文彦 庭からの声にこたえる良夜かな 人去って人来るベンチ月今宵 靡くことなくて月下の曼珠沙華 ○ 岩本康子 名月をともに仰げる平和かな 瑞々し満月海より生(あ)れしごと 名月に涼しき心賜りぬ ○ 池田加代子 月の兎という菓子うれし月待ちて 満月に一声あげし後静か 別々の窓より月を見て話す ○ 碇 英一 佇める宙を移しつやんま飛ぶ 虫の声の昼はか細き川原かな 満月や生きしものみなおだやかに ○ 池田多津子 無月なる築山に白き灯を点す 満月のあるらし雲の薄明かり 闇夜こそ葉音確かに芒原 ○ 藤田洋子 病院出て良夜の道の広々と 退院を告げられ仰ぐ今日の月 満月の夜をそのままに立つ欅 ○ 多田有花 過ぎ去りしことも思いつ月を見る 名月に川面明るき静けさよ それぞれに暮らしのありて良夜かな ○ 河ひろこ 一向に無月のままや針仕事 夜業の子軽く手を上げ帰り来ぬ こほろぎの声を聴きゐし戸締りに ○ 高橋秀之 満月を供に父と子散歩する 幼き子窓から仰ぐ天に月 晩御飯テレビを消せば虫の声 ○ 尾ア 弦 一点に夜空を絞り月の満つ 月満ちて狭山の丘にとどまれり 泣き疲れ寝入る子の上にお月さん ○ 藤田裕子 母を呼び満月の明るさの中へ 雲の上気高き光りを今日の月 あどけなく露草の青庭の隅 ○ 長岡芳樹 満月の丸きを見れば嬉しかり 赤とんぼわが指先に羽おろし はたはたの口もぐもぐと指を噛み ○ 脇美代子 月高く風にあたりて少し歩く 満月の山は静かに暮れゆけり 外に出て青き月光に包まれむ ○ 今村 七栄 金(きむ)さんの土産の壷に名の薄 月晧晧離れて星の一つ煌 山の灯の煌き迎える今日の月