【最優秀】 入学の子に青空の新たなる 渡邉道朗 評:わが子をしずかに見守っている親の姿勢が良い。下五の「新たなる」で 句を終えたのも、効果的な文語の働きがあって、レベルが高い。(高橋信之) 評:入学の子を祝うように今日は晴天。子供の成長を喜び、願う親の心を感 じます。(古田けいじ) 【優秀10句】 花辛夷空に遮る物も無し 建川 茂 評:ある日、辛夷に鳥が泊まっているように見えたことかりました。よく見 ると、それは花が咲いていたものでした。これを詠もうとしたのですが、私 には読めませんでした。お見事です。(野田ゆたか) しゃぼん玉追ふ子は皆手を空へ 神谷和子 評:「皆手を空へ」が、子どものかわいらしさと明るさをよく表しています ね。母親のやさしさも、十分感じさせてくれます。(高橋正子) 評:触れば壊れてしまうのに一生懸命に手を挙げて追いかける子供の動きと 見つめる親の姿が浮かびました。(古田けいじ) 囀りの広がりの下ひとり立つ 鳩崎良一 評:満開の花の中で囀る小鳥たち。其の木の下に立ってさえずりを楽しむ姿 がみえました。(古田けいじ) 入学式の親子靴音軽やかに 八木泰子 評:人生の内の出発点のひとつです。希望を抱く者、それを見守る者。幸せ な時間が流れてほしいものです。(相原弘子) 白米のほろほろぬくし花の昼 高橋正子 評:掌をこぼれる白米。その甘い匂いは心深く染み込んできます。佳き事多 かれと、尚こぼれてゆきます。(相原弘子) ピカソ展出て花冷えの広小路 西野研一 評:ピカソマジックにかかって展覧会場を出た作者が、花冷えの広小路を行 く。そんな情景がたちまち目の前にひろがります。(八木泰子) 花よりも色も香も濃い桜餅 中川樗枝 評:花よりだんごと言う言葉を思い出してしまいました。花の下で桜もちを 食べている光景はとても平和ですね。(阪本登美子) そよ風にただ身をまかせ蜂光る 久保維希子 評:「そよ風に身をまかせる」が新鮮。小さい生き物がいっそう輝いて見え ます。「目」の良さと若さを感じさせてくれます。(高橋正子) 花明かりしている中をうきうき歩く 高橋信之 評:今まで離れなかった雑念から解放されたかのようです。いのちある自分 を花にもわかってほしい。(相原弘子) 花の雲揺れて透き間の深き空 大谷亜紀子 評:目を奪う満開の桜。しかし作者の目はその透き間の空をみつめます。深 いブルーが美しい。(八木泰子) 【入選18句】 マンションの百灯花に点けてあり/高橋正子 評:マンションの明かりは星のまたたきにも似て、その色を微妙にちらちら とさせています。そのあかりがみんな花(桜)のためだというのです。なん という美しい発見でしょう。(八木泰子) 掘りたての筍抱いて日の光/相原弘子 評:筍も句も、新鮮そのものです。きらきら光る筍を抱いた笑顔が見えてき ます。明るく、元気のでる句はいいですね。(藤田洋子) 紫木蓮内なる白の光りけり/八木泰子 評:表と内側の色の違い。自然の力に、人間は勝てません。内側が白だから いいですね。(古田けいじ) 満開の桜己の枝見せず/野上哲斉 評:桜が蕾のうちは、枝も咲く時を待って印象的だが、満開になるとその枝 もすっかり隠れてしまう。われわれは、意外にもそれに気づかないのである 。(高橋正子) あれが辛夷妻に教えて鈴鹿越/古田けいじ 評:辛夷の花のやさしさと、夫婦の情愛のこまやかさが、よくマッチしてい ます。(高橋正子) 居酒屋の壁のモナリザ春の宵/阪本登美子 評:居酒屋とモナリザは意外な取り合わせ。ほの暗い灯の中で、モナリザも 少し色あせて、微笑んでいるのであろうか。それを見ながらグラスを傾ける のもいい。(高橋正子) 春光のふくらみ大きく包み込む/鳩崎良一 評:優しい人柄。誰にも手を差し出して、いいことを分け合いたい。(相原 弘子) 遍路行く真白き道の眩しさよ/鳩崎良一 評:遍路ーその言葉の響きに辺りの白を覚えます。眩しさも遍路の内のひと つでしょうか。(相原弘子) 春雷や縫い急ぐ手をふと止める/藤田洋子 評:春の来る喜びが感じ取れます。春雷の響きは本当に心を和ませてくれま す。(相原弘子) すこやかな声ある校舎春日さす/森 隆博 評:健やかなことは、無事是大事であって、誰もが願っている。「春日」と いう季語がその象徴となって、生きている。(高橋信之) 読みかけの本より落つる去年の花/安西さゆり 評:去年、さくらを本に挟んでいたのが、本を読んでいたときはらりと落ち てきたのでしょう。すっかり忘れていたものが、その季節が来るとよみがえ るかのようです。(高橋正子) 卒業す君に好きだとは言えない/有吉孝史 評:すてきな君だからこそ好きだとは言えない。私も少年の頃の苦い想い出 に、しばらく感動した。(野上哲斉) ひと言のことばのように桜降る/久保陽子 評:桜の花びらを「ひと言」と言うのは、少し重過ぎる感じもしましたが、 作者の思いがそうなのでしょう。桜の花のあかるさのなかには、ふとわれに 立ち戻ると、なにかしら、深い陰影を感じさせるものがありますね。(高橋 正子) 評:言葉を選びポツリポツリと恋心を伝える少年の言葉のように一枚一枚桜 は散る。(林 緑丘) 評:桜の降るのを、ひと言のことばのように、と表現するとは、なんと、鮮 やか。久保様の、潔い表現に、感服しました。(中村花乱) 春雷を遠くに聞きて畑打つ/城本三舟 評:自然を愛し畑を打ち続ける人には、遠くに鳴る春雷も、心地よい音楽の ようにさえ聞こえてくる。(野上哲斉) 桜通り抜けて谷中のせんべい屋/西野研一 評:花見見物を終えて、谷中のせんべい屋で一服したのであろうか。ほっと した気分から浮かんだ句であろう。(野上哲斉) 少年よ野に出よ菫咲いている/渡邉道朗 評:少年よ大志を抱けと言わないで、菫の花咲く大自然があるよ!四季に目 を開けと説しているのかも知れない。(野上哲斉) ゆく春は大河の如くゆるやかに/野田ゆたか 評:ゆく春のゆったりした感じが出ている。しかも大河の流れのように。(野 上哲斉) 京へ発つ桜草に水を遣り/古田けいじ 評:上京と言えば、東京の大学への入学か、就職であろうか。出立を前にし て、桜草に水を遣る心優しい青年なのである。あるいは父親か。(野上哲斉)
【最高点】 入学の子に青空の新たなる/渡邉道朗 【次点・同点4句】 花辛夷空に遮る物も無し/建川 茂 しゃぼん玉追ふ子は皆手を空へ/神谷和子 すこやかな声ある校舎春日さす/森 隆博 ひと言のことばのように桜降る/久保陽子
豆腐屋のラッパくぐもるや春の雨 春雨をぬけてそこまでポストまで 花の山ゆっくり白く夜揺らす
花の枝川面に映す月あかり 干物焼き一人の夕餉春の宵 さくらばなどこにさいてもさくらばな
春の乳房吸いて若芽の萌え競う 艶めける風の会話か花吹雪 花散らす細き枝揺れ風を生む
荷台に春積んでトラック走りゆく 桜の木老婆がぽつり休み居る 花の雲揺れて透き間の深き空
春雨の晴れを待つ空すぐとなりすこやかな声ある校舎春日さす藪の梅目立ちすぎて活けられて
ひと言のことばのように桜降る夕映えの川へ降り立つ桜かなもうたれもここにいなくて春の川
読みかけの本より落つる去年の花麓より春上りきて一服す天蓋の桜見し夜の胸騒ぎ
しゃぼん玉追ふ子は皆手を空へ桜狩り吾もその中の一人かな囀りやベランダ越しにのぞむ森
青空に咲き満ちて今花の時その肩に落花ひとひらとどまりて春雷や縫い急ぐ手をふと止める
卒業す君に好きだとは言えない桜舞うすべての幸を風に乗せ卒業の男の別れ言葉はなく
晩春にクレヨンの家が燃えているかくれんぼキャベツの中からでられない春うらら猫ぼんやり空から降る
桜散る屋上の時計時刻み遊ぶ子のボールは飛んでリラは冷え堀たての筍抱いて日の光
再開やグラスに映る花明り居酒屋の壁のモナリザ春の宵花吹雪春爛漫に木々の声
マンションの百灯花に点けてあり 入学す花なく若葉のみの校 白米のほろほろぬくし花の昼
満開の桜己の枝見せず むらさきの鳥飛ぶように紫木蓮 はくれんの開けし空に花明かり
風吹いて花びらどっとわが頭上花明かりしている中をうきうき歩くきれいですね花びら風に散ってゆく
唇に触れる花びら春の風そよ風にただ身をまかせ蜂光る桜咲き見とれる間なく桜散る
吾が娘にも縁談ありて牡丹咲く はらはらと餘花の散りくる峠かな 春雷を遠くに聞きて畑打つ
ブロッコリーちひろの瞳で孫が食む 京へ発つ桜草に水を遣り あれが辛夷妻に教えて鈴鹿越
ゆく春は大河の如くゆるやかに休憩を所望の欠伸春めきし花の木の何時も裏側作務僧
紫木蓮内なる白の光りけり入学式の親子靴音軽やかに春愁を舞い上げ風の青天井
遍路行く真白き道の眩しさよ春光のふくらみ大きく包み込む囀りの広がりの下ひとり立つ
入学の子に青空の新たなる少年よ野に出よ菫咲いている春泥の轍のままに乾きけり
大蛸の夜這いするころ 朧月リストラとつぶやいており春の昼見に行かん醍醐の桜大月夜
ピカソ展出て花冷えの広小路 桜通り抜けて谷中のせんべい屋 芽柳の弁天島に鳥の塚
退院す風に揺れいる雪柳 春愁の夜の病棟笑い声 花辛夷空に遮る物も無し
人出前の花曇りの朝からす啼くくちあたりに深緑の記憶よもぎ餅花よりも色も香も濃い桜餅
スイッチをいれるがごとく桜咲き 山桜谷間を照らす百ワット どうしても採れないところに独活ふたつ
春疾風夜どほし家をめぐりけり壷に挿すあせびの鈴の軽さかな電話多き一日なりし花の雨
春雀朝の挨拶うつうつと女教師の農に戻るや春休み二人居て主語なき会話花冷や