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労働歌職にある日の遠退きぬ 野田ゆたか メーデーに関わった日々が、蘇る。世界中の勤労者の祭典も、昨今は様変 わりしているが、活力みなぎって、懸命に働いた日々は、遠い思い出とな りつつある。(評:高橋正子)
八十八夜朝餉の食器ととのえる 相原弘子 八十八夜を迎え、朝食のテーブルに置かれる、食器の音や色合い、触れ合 う音がすがすがしい。すがすがしい朝は、今日の元気を生み出してくれる。 (評:高橋正子)
蒔いてすぐ土に紛れし花の種 脇美代子 花の種は小さいものが多いが、土に蒔けば、すぐどこに蒔いたかわからな くなる。土に紛れてしまって、蒔いた間隔も、すじも見極めがたくなる。 花種を蒔くときのささやかな感想である。(評:高橋正子)
鳥曇いつものバスの吊革に 青海俊伯 「いつもの」生活に感慨がある。生活に詩がある。(評:高橋信之)
獅子舞の笛や太鼓に風光る 堀佐夜子 春のまつりの獅子舞が、やってきた。門先なのであろう。お囃子の笛や太 鼓も、その動きに風を光らせている。その音色や音までも、きらきら輝い ている。(評:高橋正子)
魚市場どら声高く初鰹 平川康子 初鰹の生きの良さ、魚市場の活気が、青葉の季節をいっそう元気あふれる ものにしてくれます。(評:高橋正子)
鮮やかに菖蒲すらりと湯に浮ける 福田由平 菖蒲湯に浮く菖蒲の姿が、さらりと詠まれた。そのため、読者は鮮やかな みどり、剣のようなすらりとした葉の香気を楽しめる。(評:高橋正子)
蕗の広葉の風を受けつつ水平に 日野正人 蕗の広い葉は、雨を受けても、風を受けても涼しげある。(評:高橋正子)
青麦に風行き過ぎて光り置く 山野きみ子 青麦を吹き分ける風を、きらきらと輝く光の印象としてとらえて、野が明 るくさわやか。(評:高橋正子)
柏餅無骨なる葉の手に馴染み 右田俊郎 柏餅を包む柏の葉の無骨さ。文人好みの形や手触りである。それが手に馴 染むのであるから、その手もおそらく無骨に働いた手なのである。(評: 高橋正子)
包丁の音埋もれゆく新キャベツ 宮地ゆうこ 「音埋もれ行く」で、さくさくと刻まれてゆくキャベツの色と柔らかさが 想像されます。(評:古田けいじ)
彫り上げて木屑の匂う麦の風 野田ゆたか 麦の風に、木屑が匂うと、広々とした、のびやかな世界へ連れてゆかれる。 (評:高橋正子)
アカシアの花へ風来て薄みどり 古田けいじ アカシアの白い花房が、風にゆらぎ、かすかに緑を帯びて感じられる。ア カシアの葉のさやぎと、ひとつひとつの花が、ちらちらと目に入り合って 、薄みどりとなった。風のやわらかさ、花のゆたかさがいい。(評:高橋 正子)
河鹿鳴く石ころの角みなとれて 磯部勇吉 石ころが、丸くなるあたりの清流が、目に浮かんでくる。河鹿の声が澄ん でいる。「角みなとれて」は、経験によって生まれたやさしさの表出。 (評:高橋正子)
芍薬の花の白さや雲湧きぬ 戸原琴 芍薬は、牡丹と似ているが、牡丹よりも清冽。白がいい。その背景の雲も まっ白であろう。東京では、安曇野の白い芍薬が花舗に並ぶそうであるが 、清冽なイメージがあってよいものである。(評:高橋正子)
蛸壺に草花咲かせ浜薄暑 堀佐夜子 蛸壺は、俳諧的素材。浜薄暑と、蛸壺に咲かす草花で、薄暑の景色が、す っきりと詠まれた。(評:高橋正子)
枇杷を剥く水滴れり枇杷色に 八木孝子 枇杷の熟れ色が、滴りとなって、みずみずしい。「枇杷」の繰り返しも気 にならない。(評:高橋正子)
丸々と光を溜めて若葉雨 日野正人 「丸々と」した若葉の雨滴が、はつらつとして輝いている。生命力がある。 (評:高橋正子)
チェンバロの調律つづく青嵐 伊嶋高男 チェンバロの調律中の、あまり響かない、弾くような音に、よい雰囲気が 生まれている。青嵐によって句に深みがでた。(評:高橋正子)
青空や今朝ヨシキリは葭の原 守屋光雅 青空と葭の原、そこで鳴くヨシキリの声が、よく響く。夏がきたことが実 感できる。「今朝」が良い。(評:高橋正子)
海からも山からも葉桜へ風 藤田洋子 「葉桜」が季節を充分に語って、海、山、風は、初夏である。(評:高橋 信之)
水打ちて神輿出を待つ静けさに 山野きみ子 「神輿」の季語は夏だが、「水打ちて」が、祭りが夏のものであることを 、いっそう確かに教えてくれている。三社祭の光景であろうか。祭りの清 らかさが詠われた。(評:高橋正子)
直角に水の流れや薔薇花壇 霧野萬地郎 薔薇の花壇を流れる水が、鮮やかである。「直角に」流れる水は、意匠さ れたものであろうが、薔薇の花によく馴染んでいる。(評:高橋正子)
浴衣着てバスに二人の相撲取り 林 暁兵 相撲取りがバスにのると、いつものバスも楽しい雰囲気になる。普通の人 の二倍、三倍の浴衣布の分量も、夏らしさを伝えいて、迫力がある。気持 ちが軽く、楽しくなる句。(評:高橋正子)
五月雨やアジアへ向かう貨物船 霧野萬地郎 五月雨が景色全体を包み、大きな光景。。インドネシアやフィリピンやと いったくにに向うか貨物船の姿の外形を表現して、内実を考えさせる句。 五月雨が効いた。(評:高橋正子)
どちらへも十字路平ら花柘榴 相原弘子 石榴の花の割くころのしらしらした景色がよく詠われている。「どちらへ も十字路」は、広々とした田園の十字路が伸びる様子。(評:高橋正子)
哲学の真理は一つ夏木立 野田ゆたか 哲学の道を歩かれてのことだろう。歩きながら、「真理は一つ」とこれま での経験と思いから、実感されたことである。夏木立の、緑蔭があればこ そ。(評:高橋正子)
薫風や電池換えたる車いす 矢野文彦 電動車椅子の電池を取り替え、外出の準備も万端。風薫る中へ車椅子を颯 爽と進ます漲る力が、頼もしい。(評:高橋正子)
生かされてある幸せや夏野行く 安丸てつじ 広がる夏野の光景に、じみじみ生かされている幸せを感じる。自然が静か に心に染み込んで、どこか遠くを思う懐かしさのある句。(評:高橋正子)
東京の空は凸凹駅に蟻 金子孝道 東京の駅に降り立ち、空を見上げると、高いビル、窪んだビルが、空に凹 凸を作って都会を感じさせてくれる。ふと足元を見ると都会にも、自分の 住む町と同じように、小さな蟻がいて、自然が変わらず東京にあるのがう れしい。それは、東京に来ても変わらぬ、作者自身の体にある自然でもあ る。(評:高橋正子)
青嵐この村ぬけて登山口 北村勇治 読者を自然の喜びの中に連れ出してくれる。作者とともに登山を楽しむこと のできる俳句の喜びでもある。(高橋信之)