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十薬の白き十字は人に向く 加納淑子 暗い葉の上に浮かんだように咲く、真っ白い十薬の花は、気が付け ばどれも目を見開いたように、こちら、つまり人に向いている。そ れを詠んだ句である。対象にきちっと向き合う姿勢に深さがある。 (評:高橋正子)
傍らに低き風ありかきつばた 宮地ゆうこ かきつばたが、しっとりと紫の花を咲かすあたりに、吹くともなく 風が立ち起こっている様子であろう。このころの空気の湿り具合に は、しずかな落ち着きがあってよい。(高橋正子)
旅帰り玉解く芭蕉になりていし 八木孝子 旅は幾日だったのだろうか。旅に出る前に見た芭蕉は、まだ葉が巻 いたままで、ほぐれていなかったのに、旅から帰ると、ほぐれてい た。芭蕉の巻き葉も、解けた葉も、文人趣味で面白く、みずみずし いものである。(高橋正子)
たっぷりの水を含ませ描く四葩 脇美代子 「四葩」という言葉が美しい。水彩画となってそこに蘇る紫陽花の みずみずしい花かたちが思い浮かぶ。(高橋正子)
見下ろせば青葉ゆさゆさ揺れ光る 祝恵子 上から見れば、青葉の豊かさがいっそう印象付けられる。「ゆさゆ さ」は、平易な言葉ながら、青葉の重さや動きを的確に表現してい る。(高橋正子)
夏星のちりばむ刻を得て寝ねり 堀佐夜子 星が涼しく空にちりばめられるころになって、寝につくときの、し ずかな心か良い。(高橋正子)
南部風鈴街の軽風うけて鳴る 山野きみ子 みちのくの鉄風鈴が、街の風にかろやかに鳴っている。重過ぎない 音がいい。(高橋正子)
まいまいの音無き世界を独り舞う 右田俊郎 言葉遊びとなるか、ならないかのぎりぎりの句だが、「独り舞う」 は、水澄ましの生態をよく示し、独りで舞うことの寂しさが滲んで いるように、受け取れる。静御前の舞いを思い出した。(高橋正子)
立葵真っすぐが好き空が好き 平川康子 立葵は、いつ見ても、またいつの時からも、まっすぐ空をあこがれ るように立ち上って咲く。(高橋正子)
竹涼し青き日差しの幾筋も 堀佐夜子 「すずしさ」というのは、こういうことを言うのであろう。精神的 な涼しさへとつながっているところが、凄い句である。(高橋正子)
郭公啼くどこまでも見え駒ヶ岳 守屋光雅 どこまでも見える駒ケ岳は、やはり、盛岡から見える駒ヶ岳であろ う。駒ケ岳から八幡平へはるかに続く山並みがこの日は望めて、郭 公の声が夏の幸せのようにひびく。駒ケ岳の青い色が芳しい。(高 橋正子)
はっきりともの言いたき日のグラジオラス 安増惠子 グラジオラスの明快な色と形は、「はっきりとものを言いたい」と いう思いを肯定してくれそうである。(高橋正子)
銀座裏氷ひく鋸光りけり 伊嶋高男 銀座も裏へ回れば、こういう光景に出会うのか。銀座を支えている 裏方の生活が、生き生きと詠まれている。氷で冷えた鋸や氷くずが 、涼しさをよぶ。(高橋正子)
紫陽花の水に触れたり撓みつつ 脇美代子 「撓みつつ」で、句に動きが出た。紫陽花が水にふれて、紫陽花本 来の姿になっているように思う。紫陽花も本意を得たといいうとこ ろ。(高橋正子)
豌豆の香り丸めてにぎりめし 大石和堂 豌豆ご飯が、おにぎりとなったところに、野趣味がある。香りまで 丸められて、お米の味も上々で、季節の食の楽しがある。(高橋正 子)
泰山木その上空のあるばかり 藤田洋子 洋子様、このお句でくよくよしてた私が何処かへ消え去りました。 ありがとう御座いました。(堀佐夜子)
枇杷の駅発車の笛と挙がる手と 相原弘子 駅が近いと生活の中に動きがみえます。駅員さんの動作と色づいた 枇杷が写生している様に写ってまいります。(目見田郁代)
虫除けの御幣の白し青田風 八木孝子 このような伝統的な風習が残されて、それが、目にさやかな青田と して句に詠まれたことに意義がある。このような感覚は、日本的な もの。都会中心主義、地方中心主義を排して、お互いが共存できる 感覚を持ちたいものと思う。(高橋正子)
さくらんぼ軸を結べば雨の音 多田有花 うっとしいこの頃、可愛らしいさくらんぼを直ぐに食べられなくて 、雨の音を聞きながら軸を結んでいる有花さんを想像しています。 (堀佐夜子)
岩一つ滴り通す水の音 小峠静水 滴りが、冷たく澄んで、一徹に滴り通すところに、意志の強さを感 じる句。(高橋正子)
梅雨晴れ間森の緑に染まり行く 古田けいじ けいじさんの森の句は好きですね。日本民族の原点は、森にあると 見ています。(高橋信之)
冷や奴飾る葉っぱを日替わりに 芦本照代 冷や奴に、心遣いの涼しげな葉っぱが飾られていれば、うれしく思 う。青楓などのほかに、どんな葉っぱを添えるのだろうか。明日の 葉っぱを思って見るのも楽しい。(高橋正子)
川沿いに蔭濃く在りて夏木立 池田和枝 川に沿って木立が続くが、葉がよく茂り、強い光にいっそう濃い蔭 作っている。川の水と蔭の濃さに力強さがあって、しかも涼しげな 句。(高橋正子)
雨上がり鉄砲百合の同じ向き 岩本康子 鉄砲百合がかたまって咲くのを見れば、同じ方向を向いて咲く花の 不思議に、誰だって驚かされているに違いない。それが雨上がりな ら、雨滴をつけた花の姿がますますリアルになって、意識の内に、 一叢の白百合の世界が確として生まれる。(高橋正子)
六月の落暉涼しき丸さかな 碇 英一 「涼しき丸さ」が、六月の太陽を見事にあらわしていると思う。暑 い一日の終わりの夕日を涼やかに感じれる心境がいいと思う。(高 橋正子)
墨書涼し紙一杯に句意溢れる 山野きみ子 私も会場で拝見しましたが、信之先生をはじめ現在活躍中の俳人の 作品を書家が揮毫するというユニークな企画に感心しました。大半 の書が、そのまま読める書道展はほかでは見たことがありませんね 。<句意溢れる>を私はそのように理解しました。(伊嶋高男)
朝風に一度に動く夏木立 小原亜子 涼しい朝の風がひと吹きすると、木々の葉が一様に揺れる。葉騒も すずし気である。夏木立が、若若しい感性で捉えられている。(高 橋正子)
葛切りもグラスも透けるティータイム 霧野萬地郎 洒落た感覚の俳句ですね。葛餅もグラスも本当に涼しげです。ティ ータイムという言葉がいきいきとして、いいティータイムだったこ とが伺えます。(評:高橋正子)
梅の実の陽の色つけて匂いけり 磯部勇吉 梅に熟れ色がついて、いい香りがしている。梅雨の「陽の色」がい い香りを実感させてくれる。(高橋正子)
黒南風や暮るる山並み黒々と 安丸てつじ 梅雨時の南風が、黒南風。多くを語っていない句だが、南風が吹い て、黒々と暮れてゆく山並みにしみじみとした思いが湧く。(高橋 正子)