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秋天や留めるものの無き高さ/大石和堂 抜けるように青く高い秋天を、「留めるものの無き」と感じた。留めるも のとは、なんだろうと哲学的な問いが湧く。切り込みが深い。(高橋正子)
新涼や卵の殻で瓶洗う/都 久俊 卵の殻を瓶に入れて、振り洗うと、瓶はきれいに透き通ってくる。新涼の 感じが、透明な瓶、清潔な白い卵殻によって、楽しく表現されている。余 談だが、茶渋のついた水筒に卵殻を入れて洗うと、水筒はピカピカになる 。これは私のお勧め。(高橋正子)
稲田の上を新幹線のすれ違う/相沢野風村 すっきりと広がる稲田の上を走る、新幹線のスピード感が爽快。(高橋正子)
色づきし毬わり栗のこぼれ落つ/右田俊郎 的確な写生で、色づいた栗の毬が、初秋に新鮮である。「こぼれ落つ」に 、この句を納得させる力がある。(高橋正子)
真四角の柿の葉すしをむく夜長/平野あや子 柿の葉すしは、お土産なのだろう。柿の葉にきちっと四角に包まれたすし を、むく所作に、夜長の思いが湧く。熱いお茶も淹れられているだろうか ら、よいひと時である。(高橋正子)
巨峰買うセロファンごしの豊さを/霧野萬地郎 「セロファンごしの豊かさ」によって、大粒の紫の葡萄のみずみずしさが 、よく伝えられている。セロファンの透明感が新しい。(高橋正子)
百日紅幹に夕日の滑り落つ/山野きみ子 夕日は低くなって、あらわな百日紅の幹に当たっている。まだ花を高々と 咲かせている明るさのなかにも、幹に当たる夕日には一抹の寂しさがあっ て、日差しに秋めくものがあるのを感じる。(高橋正子)
大根蒔く畝の深さに日の射して/脇美代子 朝夕が涼しくなり、大根を蒔くときになった。夏から秋へと、日差しが傾 斜してくる。畝に深く差してくる。その畝には、すぐに貝割菜が、育って くると思うと楽しい。(高橋正子)
シベリアの秋茫々と湖(うみ)の数/多田有花 シベリアを飛行機で越えるとこうなのである。物音一つないような森林の なかに点在する湖。世界一の水深を誇るバイカル湖もあるであろう。季節 が秋ならば、シベリヤは「茫々と」なのである。(高橋正子)
花野来て花野の夕暮れ見て帰る/戸原 琴 花野を歩んで来た心楽しさ、花野の夕暮れの地味なようだが、静かな華や かさが、秋の野の美しさを伝えている。(高橋正子)
栗渋皮剥く包丁の固き音/守屋光雅 原句の「渋剥く」は、日常的には、そう言われているのかもしれないが、 「渋」ではなく「渋皮」とした。栗を剥き続けると、栗を剥く音は、確か に固い音として捉えられる。物の本質へと迫る意志がよく感じられる。 (高橋正子)
コルク栓抜けば月夜に音残す/日野正人 月夜に、なにか物語りが始まるような気配があって、ユニークな句。静か ないい月夜という平面に、ワインを開ける音がはっきりとして、三次元の 世界を構成している。(高橋正子)
虫の音に取り囲まれて闇にいる/祝 恵子 【評】灯を消して、静かにしていると、虫の音が四方から聞こえてくる。 虫の夜がふっくらとして感じられる。(高橋正子)
御岳の雲掃われて秋空へ/古田けいじ 懸かっていた雲が払われて御岳の雄姿が現れた。親しんでいる山が、季節 を新たにして、秋空にすっきりと聳え立つのがいい。(高橋正子)
群れつつも一本ずつの曼珠沙華/矢野文彦 曼珠沙華の咲き群れる光景に出会うと、あたりは、あの赤い色に塗られた ようになるので、一本一本の花を意識しないのが、普通かもしれない。が 、よく意識すれば、それは、一本一本なのである。(高橋正子)
秋耕に電柱長き影下ろす/吉田 晃 「長き影下ろす」が、すべてを言い切っている。秋耕(しゅうこう)の音 も静かな土の光をよく表している。静かで深い心境がよい。(高橋正子)
長き夜に広げてみるや山の地図/林 暁兵 夜も長くなると、自分だけの時間が少し長くなる。そんなとき、好きな山 に登るコースなどの地図を広げて、山の景色を想像したりするのも、楽し い時間である。(高橋正子)
ミシン踏めば夜汽車のような秋の夜/河ひろこ 足踏みミシンのカタカタという音を一人聞きながら、秋の夜長に縫い物を している。ミシンの音も、手元を照らす灯りも、まるで夜汽車のようであ る。優しい女性像が描かれている。(高橋正子)
しみじみと十五夜の月観て寝ねり/堀佐夜子 十五夜の月の光りが、体にしずかにしみ込んでいる。「しみじみと」にそ れが感じられ、ほんとうにいい月である。(高橋正子)
群生を少し離れて曼珠沙華/平川康子 このように咲く曼珠沙華もある。群生し、あかあかと燃える曼珠沙華に離 れて、別世界のように咲いている曼珠沙華の姿である。俗をはなれて、さ んさんと輝くものの世界を見るようである。(高橋正子)
奔放に高さ競いて芦の花/石井信雄 静かな芦の花にも、奔放で、競いあうような時がある。静かな花の、自由 な奔放さは、愛すべきもの。聴こうとすれば、水音さえも聞こえて来る景 色。(高橋正子)
手水舎に小鳥つぎつぎ来ては去る/磯部勇吉 次々に水を飲みに来ては去る小鳥の楽しい姿がある。ほんの少しの水に乾 きを潤わせて足りる小動物の生き方がかろやかである。(高橋正子)
実椿を風が吹き過ぎ石畳/安増惠子 石畳に沿って植えられている椿だろうか。実が色づいて輝いている。それ を風が吹き、通りすぎて行く風情は、捨てがたい。(高橋正子)
異国語も混じる埠頭の天高し/小原亜子 埠頭には、海の空もあって、心は広く開かれる。異国の言葉は、異国の人 たちの望郷の思いのようにも聞こえる。(高橋正子)
新藁を積みしトラック村下る/碇 英一 新藁を満載した農作業用のトラックが、村の坂道を下ってゆく。その姿を 見送る目に、新藁の色が、新鮮に映る。刻々に移ってゆく季節が詠まれた 。(高橋正子)
信濃路や陽をふっくらと稲架襖/八木孝子 信濃路という語がやさしく響く。稲架に架けられた稲が、静かに陽を吸っ てふっくらして、あたたかく心休まる光景。(高橋正子)
流星の後も見ている沖の船/野田ゆたか はるかなものを見ている心境がよい。沖の船の明かりも、流星の去った空 の星も同じ光りである。 (高橋正子)
秋風を集めて深し空の青/安田明子 秋風が、空に吸い込まれてかのようである。それだけ空は高い。吹く秋風 をすべて集めたら、どんなに深く青い空ができるのだろうかと思う。新鮮 で詩的な発想。(高橋正子)
オカリナや色無き風を染めて吹く/池田和枝 「風を染めて」という表現は、ポップスなどの歌詞に安易に使われている のが多いが、この句では、オカリナの音色を上手く表している。オカリナ が遠く響いているのである。(高橋正子)
秋天に風吹き通る文化祭/岩本康子 文化祭の日には、抜けるような青い空が広がったのでしょう。秋風も空高 くを吹きぬけています。文化祭が晴れやかな空気に包まれました。(高橋 正子)
手のひらの新米光りつつこぼる/藤田洋子 身近な生活を詠んで輝いている。いい生活である。(高橋信之)