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踏む落葉記憶の奥を鮮明に/守屋光雅 落ち葉して、風景が凋落の季節に入り、気温も下がると、人の内面は、逆に 活発になるのかもしれない。遠い記憶までも、ありありと思い出させてくれ る。(高橋正子)
秋耕に電柱長き影下ろす/吉田 晃 「長き影下ろす」が、すべてを言い切っている。秋耕(しゅうこう)の音も 静かな土の光をよく表している。静かで深い心境がよい。(高橋正子)
秋蒔きの畝の湿りを均らしけり/脇美代子 大変やわらかいリズムの句で、畝を均す鍬の音が聞こえそうである。「畝の 湿り」からは、いろいろな程よさを感じる。(高橋正子)
稲刈られ稲田は軽く広がれり/霧野萬地郎 稔りに穂を垂れた稲を刈り取ると、田んぼは、軽々した感じとなる。稲を刈 りとったあとの、しばしの田の休息といえる。(高橋正子)
コスモスが風の高さに揺れ揃う/藤田洋子 コスモスが、咲きそろい、しなやかに風に揺れている。その様子を、「風の 高さに」とした。コスモスがよく描かれた。(高橋正子)
式部の実まじりて花屋の店頭に/岩本康子 秋の花屋は、明るい草花だけではなく、実をつけた木ものや、渋い色合いの 草花が並ぶ。その中の式部の小さな紫の実は、名前もゆかしく秋の深まりを 感じさせてくれるものである。(高橋正子)
木の実独楽歩き始めし子へ廻す/古田けいじ 歩き始めた子は、木の実独楽を、なんと不思議なものと思ったのに違いあり ません。興味津々ですね。無垢な子どもとふれあう心があたたかい。(高橋 正子)
綿の実の裂けて白きがふんわりと/岩崎楽典 さりげなく詠まれているふうに見えるが、心の向く対象が、はっきりしてい て、精神がよく集中されている。綿の実が、白くはじけている「ふんわりと 」した世界に慰められる。(高橋正子)
群れつつも一本ずつの曼珠沙華/矢野文彦 曼珠沙華の咲き群れる光景に出会うと、あたりは、あの赤い色に塗られたよ うになるので、一本一本の花を意識しないのが、普通かもしれない。が、よ く意識すれば、それは、一本一本なのである。(高橋正子)
コスモスの窓辺にあれば空気軽く/戸原 琴 窓辺のコスモスが、なにもかも軽々としてくれる。身体の心も空気のように 限りなく軽くなるのである。(高橋正子)
藁混ぜる秋耕の畝荒々し/碇 英一 刈り取られた稲藁は、はや新藁としての役目を果たしている。鋤きこまれた 新藁が、白くはっきりして、盛り上げられた畝の土を荒々しく見せている。 「畝荒々し」がよい。(高橋正子)
山栗の硬き音なり山盛りに/日野正人 この句の生命は、「山栗」。単刀直入な切り出しが、すっきりとして、山の 澄んだ空気とみずみずしさをよく感じさせてくれる。「硬き音」に、つやや かで色深い栗がイメージでき、秋の深まりが静か。(高橋正子)
冬瓜の清しき白をサクと切る/祝 恵子 冬瓜の大きく単純な形と色。中もさっぱりとした白。「サクと」に作者の感 じたすべてがあって、「サクと」切られるのに相応しい冬瓜をうまく捉え、 単純、かつ的確である。(高橋正子)
いずこの山の青を連れきし青蜜柑/山野きみ子 つやつやとした青蜜柑に、育った山のみずみずしい青を想像した。青蜜柑の 酸っぱさまでも思ってしまう。(高橋正子)
ざっくりと束ね新藁眼に青し/池田多津子 「ざっくり」と表現され、藁を束ねる音まで聞こえそうである。まだ青さの 残る新藁が束ねられると、眼にはっきりと青が印象付けられる。(高橋正子)
高畝に葱植えられて空真青/野田ゆたか 「高畝」は、それだけで空にいっそう近いので、香りのある葱が植えられて 空の青が、視覚的にも、また嗅覚さえも動員させて、印象深くなりました。 (評:高橋正子)
アイロンのすべる軽さや秋うらら/池田和枝 アイロンがけの楽しさが、主婦ならではの感覚で詠まれている。明るい生活 の句。(高橋正子)
紅葉山バスも丸ごと染まりけり/河ひろこ すっかり紅葉した山に、バスが入っていくと、どの窓からも紅葉が見えて、 バスの中まで、紅葉の色に染まったようになる。紅葉の美しさが楽しめる句 。(高橋正子)
赤とんぼ夕日の風になりきって/堀佐夜子 夕日に熔けて夕日の風になりきっている赤とんぼ、「夕焼け小焼けの赤とん ぼ」のメロディが聞こえてきそうです。(八木孝子)
鳥渡る朝の蒼さにチーズ切る/平野あや子 すっきりと塵も払われた鳥が渡る朝が、新鮮に詠まれている。チーズを切っ て、簡素だが豊かな朝食が洒落ている。(高橋正子)
奔放に高さ競いて芦の花/石井信雄 静かな芦の花にも、奔放で、競いあうような時がある。静かな花の、自由な 奔放さは、愛すべきもの。聴こうとすれば、水音さえも聞こえて来る景色。 (高橋正子)
鶏頭の倒れて種をこぼしけり/磯部勇吉 「実相観入」という言葉がある。この句は、まさに「実相観入」の句である 。鶏頭の姿を、しっかりと見極め、深く自然に感じ入ったとろが素晴らしい 。(高橋正子)
鳴き交わし霧のなか行く馬の群/安増惠子 霧の中を、嘶きながら連れ立って行く馬の群れが、幻想的に詠まれた。霧の 美しさ、群れてゆく馬の美しさが、「鳴き交わし」で感覚的にとらえられて いる。(高橋正子)
曼殊沙華茎の青さの潔し/右田俊郎 曼殊沙華は、葉をつけずに青い茎をすっくと伸ばし、燃えるような花冠をつ ける。そのすっきりとした花茎を青と捉え、潔しとした。作者の潔さである 。(高橋正子)
ポケットに何もなき日の天高し/やぎたかこ 何もないということが、こんなにさっぱりと、そして晴れ晴れとしているも のかと、強く思わされる。「秋高し」の季語が十分に生きている。(高橋正 子)
秋の空警笛高く貨車走る/大給圭泉 澄み渡った秋の空に、高らかに警笛を鳴らして走る貨物列車。男の子ならず も、子どもは、時には大人も、こんな景色に憧れるのではないか。楽しく郷 愁を誘う景色である。(高橋正子)
コスモスのそこから上を空とする/小原亜子 コスモスの花と、その上の空とに分割されている景色。コスモスは空に花を 浮かべるようにそよいでいるだろうし、空はその花に応えるように青く広が っている。伸びやかで、きっぱりとした捉え方がよい。(高橋正子)
脳天に電工の声秋高し/金子孝道 秋空の高さが、人声によって心に爽やかに沁みてくる。電柱で工事中か、電 気工の声が、脳天を食らわしたように振って来た。その声に驚かされるが、 見れば空は澄んで高い。(高橋正子)
アイロンのすべる軽さや秋うらら/池田和枝 アイロンがけの楽しさが、主婦ならではの感覚で詠まれている。明るい生活 の句。(高橋正子)
大根洗ふ末寺の僧の縄襷/小峠静水 末寺というから、そんなに裕福な寺ではないだろう。大根を洗うのに、そこ にある縄を襷に、水もざんぶりと豪快に洗う。大根には、それが似つかわし いように思える。大根の白と僧衣の薄墨が対比されて、思い浮かぶのも面白 い。(高橋正子)
秋澄むや明日踏む峰を指差せり/多田有花 秋澄む心持が、溌剌と表現された。人間生活の健康で、活動的な一面は、誰 にとっても、さわやかに思えることだ。(高橋正子)