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数本の摘みしコスモス母に出し/高橋秀之 原句は、「秋桜」と書き、「コスモス」と読ませているようだが、コスモス と読むなら「コスモス」と書くべき。コスモスを摘んできたのは、幼い子ど もであろうが、小さな手には、数本で溢れるほどである。きれいな花を母に 摘んであげる子どもらしい優しさと、それを受け取る母の温かさが滲んでい る句。(高橋正子)
咲き満ちし女郎花ざくざく束に刈られ/おおにしひろし 女郎花は目には、繊細で、清楚に映るのであるが、実際は、たいへん茎も丈 夫な花である。ざくざくと束にされるのは、女郎花の「実」の姿のあらわれ といってよい。(高橋正子)
枝豆の実の充実を籠に受く/守屋光雅 枝豆を一つ一つ、籠に摘み取っていっているのであろう。手に触って、また 、籠に落ちる音を聞いて、確かな実の入り具合を、つまり充実を体で知るこ とである。(高橋正子)
秋オリオン仰ぎてザイル結びけり/多田有花 モンテローザ登山の句。命の綱のザイルを結ぶのに仰ぐ空に、オリオン座が その形を明らかに、輝いている。なんの他の雑念も許さず、ザイルはしっか りと結ばれたことであろう。(高橋正子)
山迫る町に秋水流れ入る/安丸てつじ 山からの秋水と読める。「流れ入る」は、「山迫る町」に対しての的確な表 現で、急ぎ流れる澄んだ水のきらめきと音が伝わってくる。秋水の流れ入る 町が生きている。(高橋正子)
綱引きの一直線の崩れおり/相沢野風村 綱引きの、緊張した決着の一瞬から解き放たれた綱の崩れた様が、人間の心 の緊張と解放そのもののように詠まれている。根源的な句の楽しさがある。 (高橋正子)
秋うららあの山この山くっきりと/渡辺酔美 「山澄む」の季語もあるように、秋は、空だけでなく、山も澄んでくっきり と見えます。うららかな秋の日のも霞むことなく、鮮やかな印象ですね。あ の山、この山と楽しそうにながめている様子が感じ取れます。(高橋正子)
窓に干すハンカチ白し十三夜/藤田洋子 月に干された白いハンカチは、白が透き通るようできれいですね。(高橋正子)
群れつつも一本ずつの曼珠沙華/矢野文彦 曼珠沙華の咲き群れる光景に出会うと、あたりは、あの赤い色に塗られたよ うになるので、一本一本の花を意識しないのが、普通かもしれない。が、よ く意識すれば、それは、一本一本なのである。(高橋正子)
天高し組み体操はしかと立つ/祝恵子 組み体操が青空に高々と出来上がり、父兄たちの拍手と歓声が上がる瞬間で ある。「しかと立つ」は、若さをすっきり捉えている。(高橋正子)
木の実落ち流れに深き音の立つ/碇英一 木の実が落ちる流れが澄んでいる。木の実が落ちれば、深い音となる。そこ に静かで深々としたのもがある。(高橋正子)
コスモスの花を空へと風が誘う/戸原琴 コスモスの上向きの花が空に中にそよぐ様子を、このように言った。どの花 も空へ空へと風に掬われるように咲いている。(高橋正子)
秋潮の島に分かれてまた逢えり/霧野萬地郎 小さな島であろう。島に当たって別れた潮は、また巡ってきて逢うことにな った。秋潮の紺青の流れのさわやかさが心身に満ちる。(高橋正子)
いずこの山の青を連れきし青蜜柑/山野きみ子 つやつやとした青蜜柑に、育った山のみずみずしい青を想像した。青蜜柑の 酸っぱさまでも思ってしまう。(高橋正子)
空のある限りに広がる秋星座/古田けいじ 澄み渡った秋の夜空は、いつ見ても感動させられるものの一つである。見え る限りの空に星座が瞬いて、寒さが来る前の秋の深さがある。(高橋正子)
風うけて緋色をしかと赤とんぼ/石井信雄 風の中で宙に留まったり、また、飛んで行ったりする赤とんぼ。その胴体の 、赤よりもっと濃い緋色が、しっかりと目に捉えられて揺るぎがない。「し かと」は、作者自身の実感の捉えるところ。山で過ごして降りてきた赤とん ぼは緋色となる。(高橋正子)
穂薄の向こう水平線までの海/山野きみ子 若々しく、しかも安定した句。穂薄も秋の海も、光りに満ちている。(高橋 正子)
紅葉山バスも丸ごと染まりけり/河ひろこ すっかり紅葉した山に、バスが入っていくと、どの窓からも紅葉が見えて、 バスの中まで、紅葉の色に染まったようになる。紅葉の美しさが楽しめる句 。(高橋正子)
行く雲に白鳥の声暮れている/守屋光雄 日暮れに鳴き交わす白鳥の声が、空高く響いて北国の遥かへと広がる奥深さ がある。(高橋正子)
稲架解かれ束ねる竹の軽く鳴る/脇美代子 稲架が解かれていく様子を丁寧に見て、稲架に使われていた竹が束ねられ、 軽く触れ合う音を聞き留めた。「軽く鳴る」に作者の素直な思いがあってよ い。(高橋正子)
秋の雨水平線より晴れてきし/岩本康子 秋雨がこのように詠まれると明るい。遠くはるかに心をやり、そこに晴れて ゆく日の光りを感じた。色彩と光りとが醸すニュアンスがいい。(高橋正子)
小鳥来て声澄みわたる厨にも/柳原美知子 小鳥が来る嬉しさは、誰にもあるが、毎日の厨ごとに、小鳥が来てくれると 、天気もいい日なのだろう心がはずむ。その気持ちが「澄み渡る」。(高橋 正子)
白菊を活ける長さにすぱと切る/おおにしひろし 「すぱと切る」は、潔く、白菊ゆえに清潔な句となった。一本の菊のすっき りとした姿がよい。(高橋正子)
曼殊沙華茎の青さの潔し/右田俊郎 曼殊沙華は、葉をつけずに青い茎をすっくと伸ばし、燃えるような花冠をつ ける。そのすっきりとした花茎を青と捉え、潔しとした。作者の潔さである 。(高橋正子)
山茶花の蕊に夕日の残りけり/加納淑子 山茶花の花は、蕊をはっきり見せて開ききる。その山茶花の一花、一花の開 いた真中の蕊に夕日がはっきりと差して美しく、さびしさが昇華されている。 (高橋正子)
秋の空警笛高く貨車走る/大給圭泉 澄み渡った秋の空に、高らかに警笛を鳴らして走る貨物列車。男の子ならず も、子どもは、時には大人も、こんな景色に憧れるのではないか。楽しく郷 愁を誘う景色である。(高橋正子)
造船の湾に響きて冬隣る/平野あや子 船を造る鉄や機械音が、鈍色の湾に響くと、寒ざむとして、耳に目に「冬隣 る」感が強まる。「冬隣る」の季語が生きている。(高橋正子)
日向ぼこ人それぞれに日を頒(わか)つ/小峠静水 一人ひとりの日向ぼこに射している暖かい日光。その光は、みんなに分けら れて、大きな太陽から届いている。心の隅まで暖められる句。(高橋正子)
白菜をばっりと割きて陰干しに/能作靖雄 白菜を割けば、ばりっと音がして新鮮そのもの。清冽な句。白菜漬けの用意 だろう。並べられた白菜も清らか。(高橋正子)
初雁の雲に入りたり一列に/相沢野風村 「初雁」という季語が、この句を大きく美しくした。渡る雁を見ていれば音 もなく雲の中へと入ってゆく。かがやかに美しいものの、はかなさがある。 (高橋正子)
朝日さす障子のむこう金木犀/林緑丘 白い障子に、金木犀のある庭に、久しぶりにゆっくりした気持ちで、日本の 良さを感じている。(高橋正子)