■俳句カレンダー/1999■

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【10月】

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1日(金)

乾杯の信濃の新酒溢れけり 古田けいじ



自句自解

友人の計らいで蓼科高原の洒落たホテルに泊まった。夕食の時、今年の信濃

のぶどう酒で乾杯した。グラスを合わせ、学生時代の話など、尽きぬ団欒と

なった。


2日(土)

池に水動いて二十三夜月 相原弘子



自句自解

暗い。本当に暗い。縁側から池を見た。どこかが動いた。


3日(日)

武蔵野の風の中なる秋桜 阪本登美子



自句自解

吉祥寺に久しぶりにでかけた。駅をでるとコスモス畑が一面に広がり、心地

よい風が頬をなでた。気がつくとコスモスの中を歩いていた。


4日(月)

早稲の香に動き始める村の朝 森 隆博



自句自解

5時の早朝、早稲の四隅に機械を入れるための手苅りをしている。朝の空気

に躍動の村が包まれている。


5日(火)

秋あかね無言で征きし画学生 古田けいじ



自句自解

長野県にある戦没画学生の残した絵を中心とする美術館「無言館」を訪れた

。質素な構えの美術館の方から、秋あかねの群れが飛んできた。何だか、画

学生の生まれ変わりのように思ってしまった。


6日(水)

大いなる薄一叢空海展 野上哲斉



自句自解

先日空海展を見学した。1220余年も以前に実在の人物である。遣唐使時代の

空海修業先であった、西安の青龍寺も拝観の機会に恵まれた。ますます空海

が身近な人物と思えてきた。堀之内の薄も、心なしか風に揺れて見えた。


7日(木)

鈴虫の音より湖の音がする 高橋句美子 



とぎすまされた作者の耳、感性の鋭さがうかがえます。(阪本登美子)


8日(金)

爽涼の朝がうれしくワイン買う 藤田洋子



自句自解

一年程前、朝刊を開くと高橋先生のインターネット俳句の記事を目にしまし

た。誌友の皆とうれしさを分け合って頂くワインは、格別においしく感じま

した。


9日(土)

初甘藷ひとつ包んで届きたる 大本晶子

 

初甘藷の句、いかにも初物ということで、新しい季節を敏感にあらわしてい

ますね。甘藷の色が目に新しいですね。 (高橋正子)


10日(日)

稲架解かれ棒の長さにまとめられ 相原弘子



自句自解

今の今まで田に踏ん張っていた稲架が棒に返った。手際よくまとめられ強く

縛られ、車に乗って見えなくなった。取り残された思いがした。


11日(月)

飛行機雲空駆け登り菊日和 堀佐夜子



自句自解

ご近所にそれは見事な菊作りをなさっている家があり秋になると一度は訪ね

ています。私の行く日は晴れの日ですのでそれを詠みたかったのです。


12日(火)

海岸線秋日綾なすちぎれ雲 阪本登美子



自句自解

国道134号線は相模湾ぞいを走り、凪いだ海に秋の陽がきらめいていた。

いつもより空が高く感じられた。


13日(水)

田に住んで若き案山子の身なりなる 森 隆博



自句自解

田んぼの世話も世代交代、案山子も然り、だが実りへの若い世代の思い入れ

が感じられた。


14日(木)

大根蒔く話も出でし集会所 渡邉道朗



自句自解

周囲にはまだまだ農家が多い。農業とは関係の無い寄り合いの席でも四季折

々の農作業の話が出る。もともと農家育ちの私は、そんな話に昔の記憶を重

ねてみたりするが、私の記憶はすでに切れ切れである。そんな折の一句。


15日(金)

荷駄の甕揺れて新酒の音がする 霧野萬地郎



紹興の酒ですか。大陸の秋はまたいいものでしょうね。素朴なのでしょうね。

すべてが。(吉田 晃)


16日(土)

秋刀魚食う苦味もともに呑み込めり 安西さゆり



自句自解

 秋刀魚の苦味がなぜおいしいのかまったく分かりませんでした.

でも今年の初秋刀魚のとき、あの苦味がうそのように旨みに感じられたのです。 


17日(日)

忌を終えし今朝の白菊よく匂い 藤田洋子



自句自解

その翌朝の白菊の香にとても心癒やされました。今年もまた大切な人を忍ぶ

かのように、菊の蕾が開きだしました。


18日(月)

だんじりの声高くなりすれ違う 渡邉道朗



自句自解

向こうからやってくる他のだんじりの灯を見ると、とたんに乗っている子ど

もも、引いている大人も声が大きくなる。そしてその声が最高になるのがす

れ違うときである。大人も童心に帰る一時である。


19日(火)

わが背の低ければ木犀の匂い濃き 吉田 晃



自句自解

今日も箒を持って、学校の玄関を掃除する。いつものところに来ると,一層

濃い匂いが私の頭上に降りかかってきて、私の肺は大きく動いてしまう。


20日(水)

頬杖の少女の視線の天高し 吉田 晃



自句自解

教室での授業。講義をしながら目をやると、頬杖をついた少女に気づく。注

意をしようとしたが、彼女の目の涼しさに注意をするのがもったいなくて、

彼女の視線を追ってしまった。


21日(木)

さわやかに畑の中から立ち上がり 相原弘子



無駄な言葉が一切なく、「さわやか」という季語が一句全体をうまくまとめ

、さわやかな一句が生まれました。(高橋信之)


22日(金)

朝霧の晴れて艀の先ず動く 霧野萬地郎



立ち込める朝霧の徐々に晴れてゆく中を、まず艀の動く様子が読み込まれた

のは成功ですね。(野上哲斉)


23日(土)

ただいまの声の後ろに月まるく 安西さゆり



自句自解 

日の落ちるのが日に日に早くなり、子供の帰宅するころ外はもう真っ暗.玄

関チャイムの音とともに開けたとき、子供がお月様を連れ帰ってきたのかと

思うような大きくまん丸の十五夜でした。


24日(日)

十六夜のものみななべてみずみずし 高橋正子



詩情のある句です。写生にしっかりと支えられているので、良い俳句となり

ました。俳句が詩であることは、当たり前のことですが、「当たり前のこと

」は、忘れられてしまいがちです。(高橋信之)


25日(月)

山積みの新米売り場訛りあり 前野一夫



米どころから運ばれてきた山積みの新米を売る店の中で話される訛りは、日

本の決して失われることのない原風景。日本人であれば、誰もが懐かしい思

いを抱くであろう。(高橋正子)


26日(火)

鶏頭の何れも紅く暮れ残る 渡邉道朗



自句自解

たまたま少し早めに社を出たその日もほとんど暮れかかっていた。通りかか

った民家の、いつも見る庭の、ほとんどのものがすでに闇に溶けた中で、鶏

頭の深紅だけがあちこちに残っていた。暗いのを良い事にじっくりと見せて

もらった。


27日(水)

寝待月畳の上のラジオかな 山岸忠信



「畳の上のラジオ」が、この句をいきいきした句にしていると思います。い

い句と思いました。(高橋正子)


28日(木)

新聞の刷りたての匂い秋の朝 森竹智則



さわやかな匂いです。さわやかな朝です。新聞、テレビ、インターネット等

、情報の溢れている時代です。選択の難しい時代になりましたね。間違わな

いようにしたいものです。先ずは、人間らしい生活ですね。(高橋信之)


29日(金)

故郷の訛りの中に柿熟れる 渡邉道朗



いい句を読むと、とても嬉しくなります。これは、そのような句。「ふるさ

と」と「柿」との取り合わせが絶妙。「訛り」が効きました。(高橋信之)


30日(土)

鳥は皆高音大豆の乾く日々 相原弘子



力の入り過ぎた句が多いですが、この句は、程よい力の入りです。読みやす

いですね。(高橋信之)


31日(日)

前山の赤松すっくと秋天に 上出真佐子



<月澄めり前山背山横山に>とで、昼夜一対の俳句です。毎日がいい環境の

中に居られますね。それを生かしています。いい環境の中のいい俳句です。(高橋信之)


<11月>

1日(月)

行く雲にジンジャーの花のすがすがし 高橋正子



青空を背景にして,白い雲と大輪の白い花がゆっくりと動いている光景を見

ているようです。ジンジャーを最近覚えたので特に印象深い作品です。(伊嶋高男)


2日(火)

二人がけの机でどんぐり回した日 吉田 晃



自句自解

ある年になると、忘れていた昔を懐かしく思い出すのだろう。今,「木のぬ

くもり」が大切にされ、学校では木の机や椅子の地位が回復されてきた。昔

は、松の木でできた、子どもにとってそれは重い代物だったような気がする。


3日(水)

秋時雨神田須田町蕎麦屋味噌 伊嶋高男



漢字だけの下町描写は、とても粋に感じます。秋時雨は更にいいですね。(霧野萬地郎)


4日(木)

りんご取り出して空き箱の新しく 相原弘子



自句自解

ねぶたの描かれてある箱から、りんごが次々取り出された。何もなくなった

箱は丈夫な底を見せ、どこからともなく新しかった。



残るなく散ってしまいし萩が揺れ      弘子(推奨句)

 台風一過の情景でしょう。止むことのない自然の営みを捉えました。

 生命の核心を表現していますね。

   


5日(金)

グラタンの焦げ目ほどよき夜食かな 堀佐夜子



自句自解

だいぶん前に作った句です。夫が幾度目かの入院時に一人分の冷凍ものを買

ってきてレンジでチンしてじーっと焦げ目がつくのを見つめた夜遅くのひと

こまです。


6日(土)

生えそめし前歯シュワッと林檎食む 古田けいじ



自句自解

初めての孫。前歯から歯が揃いはじめる。小さく割った林檎を本当にうまそ

うにかぶりつく。シュワッと音をさせながら。奥歯はないのでそのまま飲み

込んだであろう。


7日(日)

モダンジャズ午後の語らい風の色 阪本登美子



自句自解

午後のひとときジャズの音色にのり、おしゃべりにむちゅうだった。風もう

すいパープル色のようだった。


8日(月)/立冬